この夏、ご縁をいただいて島根へ行くことになりました。
以前取材で行ったことがあり、出雲は大好きな場所です。
コロナの影響でしばらく運休していた富士山静岡空港⇔出雲縁結び空港線でしたが、無事再開。8:20に静岡を出発、9:35に出雲着です。
レンタカーの手続きを済ませる頃にはちょうど各所がオープンする時間帯なので、効率よく回ることができます。
島根は民藝の精神が今も息づく場所ということで、今回の最大の目的は「湯町窯」。
ぽってりとした黄色い土で作られたエッグベーカーやスリップウェアなど、きっとどこかで目にしたことがあるはず。最近は某ブランドのセレクトショップで取り扱われたり、雑誌やネットでも紹介され、若い世代にも大人気です。
湯町窯を訪ねたのは、島根に着いて2日目の朝。一泊二日の旅、行きたいところは効率よく回りたい…と思って下調べをしたら、湯町窯は朝8時開店!これはありがたいと、朝一番に訪れることにしました。
いざ行ってみると、お店は閉まっているのですが、店舗入り口に「御用の方はこちらを押してください」と呼び鈴が設置されています。
ピンポン♪と鳴らすと、「は~い。奥からどうぞ~。今開けま~す」と声が。
「どうぞどうぞ、いらっしゃ~い」とニコニコしながら出迎えてくださった方こそ、窯主である三代目・福間琇士さんその人でした。
首から提げた私のカメラを見て「立派なカメラね~。どこから来たの?」と興味を示してくださったので、早速自己紹介。
ネットやSNSでご紹介させてください、といういきなりのお願いも快くOKしてくださいました。
名刺を見ながら「ルリちゃんっていうのね。素敵なお名前。朝一番に会えたのがルリちゃんで、今日はいい日ね~」と言いながら、ご自身のこと、窯のことを教えてくださいます。
「もともとはね、火鉢作ってたの。持ち運び出来て、灰皿にもなるようなの。便利で重宝されたんだよ」
「バーナード・リーチ、柳宗悦、河井寛次郎、濱田庄司、それから棟方志功とかみんな来てね、作り方教えてくれたの。バーナード・リーチ知ってる?」
との問いに「もちろん!」と答えると、
「ルリちゃんはいっぱい勉強してきれくれたのね。こっち来てごらん。いいもの見せてあげる」と奥の間へ。
そこに無造作に置かれたのは、バーナード・リーチ本人が絵付けをした大皿、濱田庄司の器、棟方志功の絵や書など。窯を訪れた著名人の写真も所狭しと飾られています。
「これは誰々の、あれは誰々の、そっちは誰々で」次々繰り出される偉人の名前にクラクラ…民藝好きには息もできない空間でした。
「…すごいですね」といしか出てこない感想に「でしょ?」といたずらっぽく笑う福間さん。
ご自身もすごい方なのに、地方から来た1カメラマンにこんなにも丁寧に説明してくださり、感激してしまいました。
ため息交じりに店内に戻り、興奮冷めやらぬままのお買い物タイムです。
まずは当然エッグベーカー!ということでいくつか並ぶものを見せていただきます。
独特のはちみつ色をした「黄釉」とクールなブルーの「海鼠釉」、どちらも捨て難い…
「どっちがいいと思いますか?」とすがる私に、福間さんは「好み!好きなのでいいの!」と笑います。
悩みに悩んで選んだのは、原点というべき黄釉。卵の色味とも相性が良く、こちらを選んでよかったと思っています。
もうひとつ選んだのは、煙が渦を巻くような柄のスリップウェア。少し立ち上がりのある黒い角皿です。
本当はその柄で平らな中皿が良かったのですが、「それは技法的に無理なの!」と福間さんにまたもや笑われてしまいました。
もうひとつ、小さな湯飲みを選んで、お会計。
エッグベーカーの使い方を書いたリーフレットを添えながら「3回作ってうまくいかなかったら電話ちょうだいね~」と包んでくださいました。
見ればショップのフライヤーと紙袋は棟方志功の絵。
「素敵ですね!」と喜ぶ私に「じゃあ2枚入れてあげるね!」とサービス。
ホクホクして紙袋を下げる私に「だんだん、だんだんね~」と、出雲の方言で「ありがとう」の意味の言葉を何度も繰り返し、お見送りくださいました。
ネットでポチっとすればなんでも手に入る昨今です。コロナ禍でそれは加速しているとは思いますし、便利なことは私も承知しています。
その一方で、実際に「買う」という行為そのものは、誰から買うか、どこで買うか、買うことでどんな時間を過ごしたか。これらはますます大切なファクターになると、改めて感じ入りました。
湯町窯の器はもちろん通販でも手に入りますが、実際に作っていらっしゃる方から話を聞き、自分の目で選んで買ってきたものは、モノひとつに対する思いが全然違います。
さっそくエッグベーカーを使って、毎日卵を焼いています。(火加減も上手になりました)
ふっくら焼けた卵は、「私は天才かもしれない」と思うほど、うっとりするくらいに美味しいのです。
思い出が、卵をさらに美味しくしてくれているのだと思います。
福間さんの「だんだん、だんだんね」という温かい声を思い出し、今日もゆったりと卵を焼いています。




